これからのテキスタイル素材①

 

市場調査チーム

アンサンブラウ イベント+マーケティング

 


今年もあと僅か、年明け2024年最初にフランクフルトで開催されるのが、国際ホームテキスタイル見本市ハイムテキスタイル(heimtextil)。

2024年1月9日から12日までの開催です。

 

ハイムテキスタイルで毎回話題となるのがインテリア全体にも影響を与えるトレンド情報。今現在の、欧州の消費者の心理を的確にとらえたトレンド予測として定評があります。

 

2024年に掲げられているトレンドテーマはNew Sensitivity(新しい感性)

環境への向き合い方や人間関係等、価値観が大きく変わりゆく現在に求められる新しい感性という意味です。

その中で特に注目を集めているのが、「未来の素材(Future Materials)」、これからのテキスタイル素材です。

共通するコンセプトは、持続可能性への取り組みをさらに進めた再生デザイン

環境保護にプラスとなる資源の再生、コミュニティの繁栄を支えるクリエティビティにあふれた実例について、紹介したいと思います。

 

1.豊かなコミュニティの実現

環境を守るために、まずは生産者である人々の生活をどう豊かにできるか。

生産者の労働条件や将来の見通しをより良くすることを目指したコミュニティの活性化、生産者に光を当てた取り組みです。

 

Fernando Laposse(フェルナンド・ラポッセ)

写真:https://www.fernandolaposse.com/projects/

 

ロンドンを本拠地とするメキシコ出身のプロダクトデザイナー、フェルナンド・ラポッセ氏による、テキーラの原料でもあるリュウゼツランを使用した持続可能な地域再生プロジェクト。リュウゼツランの葉から作られるサイザル麻を使用し、家具などに応用しています。写真は、リュウゼツランの葉を原料とする素材で作られたベンチです。

 

地元コミュニティと協力し、伝統的な農業慣行の再生を通じ農業従事者に公正な賃金を提供し、脆弱なコミュニティに力を与えています。また、リュウゼツランの栽培を通じて水を確保し、生活も仕事も可能になり、地域に再び人が住めるようになりました。

デザインを通じて環境と社会の生態系を再生できる力を示しています。

 

アヌー共同体(The Anou Cooperative)

写真:https://www.theanou.com/top_favorites

 

アヌー共同体は、モロッコ全体にわたる600人以上の職人、工房、および協会からなる運営組織です。

再生可能な素材供給チェーンを構築し、フェアトレードをさらに進め、中間業者を排除、モロッコの工芸産業の強化を目指しています。

 

メンバーは質の高い、非毒性の安全な材料や染料を手頃な価格で入手でき、労働条件や環境を改善するとともに、オンラインでスキル向上のトレーニングやサポートを受けることができます。 オンラインマーケットプレイスでは、職人が製品の写真を撮影し投稿し、直接顧客と取引をすることができます。職人は各購入価格の80%を得て、残りの20%は共同体に再投資される仕組みです。

 

Fine Cell Work(ファイン・セル・ワーク)

 写真:https://finecellwork.co.uk/

 

刑務所で刺繍の技術を教えている、イギリスの慈善団体ファイン・セル・ワーク。受刑者に作業機械を提供し、作業に対して報酬を支払うことで、精神面でのサポートと将来の雇用機会を提供しています。

 

ファイン・セル・ワークのボランティアは、刑務所内で刺繍の作業グループを運営し、出所後には研修プログラムで共に活動して、受刑者や出所者が生活を再建し犯罪に戻らないよう支援しています。有名なデザイナーと協力して様々な生活雑貨やファッションアクセサリーを制作することも。イギリスの刑務所で唯一許可されている有給の作業となっています。手作りの製品は刑務所のワークショップで仕上げられ、オンラインショップやイベントで販売され、受刑者の社会復帰と再生に貢献しています。

 

 

2.プラネットポジティブ(再生農業)

効率性の重視で環境に有害な負荷を与えてきたこれまでの農業の考え方を逆転させる再生農業。有機土壌を再構築し、炭素を土壌、湿地、および木に封じ込め、水を保持し、人工的な殺虫剤や肥料の使用を減らすことへの包括的な取り組みです。

 

BioPuff by Ponda(Ponda社製BioPuff)

 写真:https://www.ponda.bio/#biopuff

 

英国の化学素材メーカーであるポンダ社は、植物由来の原材料から地球にポジティブな影響を与える「プラネットポジティブ」なテキスタイルを製造しています。再生農業を通じて損傷した生態系を回復させ、将来志向のサプライチェーン構築を目指します。

 

BioPuff®は、湿地で栽培されたカヤツリグサから作られた断熱性を持つ素材。低エネルギーかつ無水のプロセスで作られ、使用後は自然分解し、堆肥下で安全に環境に戻り、循環します。英国、スコットランド、ドイツの農業プロジェクトから材料を調達しており、各地域の環境に適した農法を設計、生態系の回復や炭素レベル向上を実現しています。

 

Sebastian Cox(セバスチャン・コックス)

 写真:https://www.sebastiancox.co.uk/

 

家具メーカーのセバスチャン・コックスは、「自然ファースト」の視点でデザインを展開、自社が管理するイギリス、ケントの古代の森から素材を調達しています。

 

自然な再生を促進する方法で樹木を伐採し、伐採後にゆっくりと自然の状態に戻るようなリワイルディング(再野生化)プロジェクトを創出しています。英国産の様々な木材やレザーなどの自然資源にアクセスできるようにし、デザイン業界が見た目の美しさよりも素材の地元調達、持続可能な入手方を重視すべきだとしています。材木の伐採、製材、乾燥はすべて社内で行われ、その後サウスロンドンのゼロ・ウェイスト、カーボン・カウンティングワークショップで加工されます。耐久性を備えた同社の家具は、「標準化されない自然」を唱えています。

 

Good Earth Cotton(グッド・アース・コットン)

写真:https://www.instagram.com/p/CrUXi0MIsAw/

 

オーストラリアを拠点とする再生農業プログラムで、生産者とコミュニティが気候にプラスの影響を与える、完全にトレース可能な綿の供給チェーン構築を支援しています。

 

環境にやさしく、かつ高い収穫量を実現する綿栽培のプロセスは、土壌を最小限の干渉で豊かにし、湿度を保つことに焦点を当てています。健康な植物は大気中の炭素を捕捉し、光合成を通じて成長、その根を通じて土壌に栄養を供給します。季節に合わせた輪作により地面を常に覆うことで、害虫や病気のサイクルを防ぎます。参加農家は、収穫の旅に基準に適合しているかの測定・監査を受けています。

FibreTrace®という生産過程の透明性を実現する技術を生の繊維に埋め込み、そのライフサイクル全体でのブロックチェーン認証を実現しています。

 

 

3.伝統の継承

古代から伝わる素材や織物の生産から得られる知識を活用し、将来に向け継続的に栄えるようにする取り組みです。

 

多くの先住民の慣行は本質的に再生可能な方法であり、土地や地元のコミュニティと調和しています。文化遺産や職人技の価値を認識し、その生態学的な知恵から学ぶことによって貴重なスキルと知識を維持できます。

 

Turquoise Mountain(ターコイズ・マウンテン)

写真:https://heimtextil.messefrankfurt.com/frankfurt/en/programme-events/future-materials.html#navigation

 

ターコイズ・マウンテンは、アフガニスタン、ミャンマー、中東の歴史的な地域と文化コミュニティを保存する活動を行っています。地元のスキルと伝統的な工芸を復活させることで、雇用を創出し、地元の誇りを回復させるのに役立っています。

 

チャールズ3世によって創設、寄付者や慈善パートナーの支援を受け、職人や小規模ビジネスを地域および国際的な商機に結びつけています。織物から木工、宝石まで、トレーニングセンターや難民キャンプでの初級から高度なレベルまでの幅広い研修プログラムは、新世代の職人を育成しています。

 

Norlha(ノルハ)

 

写真:https://www.norlha.com/collections/sustainable-luxury-handwoven-yak-wool-homewares/products/one-of-a-kind-vase-blanket

 

チベット高原の遊牧民家族によって手作りされたノルハは、ヤクのクルーと呼ばれる柔らかな毛を使い、プレミアムなアパレル・ホームテキスタイルを作成しています。

 

2007年に現地の母娘により設立され、現在130人の地元の職人を雇用しています。数世代にわたり地元のヤクの毛を紡いで織っている職人もいます。インドとネパールの現代技術と伝統的なチベットの職人知識をバランスよく組み合わせることで、スキルを保存するだけでなく、地元コミュニティに雇用機会を提供しています。さらに、牧畜民に別の収入源を提供することで、牧畜民の間での競争が減り、牛はより良い牧草地で餌を食べることができるようになっています。

 

次回に続きます。

 


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